★「まとめ」日産のカルロスゴーン会長逮捕事件 日本が世界に晒す歪なダブルスタンダード★

 

日本は絶大な権力を握り影響力のあるテレビ(放送局)と新聞というオールドメディアの報道能力が圧倒的に低く,事実報道ではなく恣意的に加工した情報を垂れ流して世論誘導するという最悪のジャーナリズムが蔓延っているため,日産のカルロスゴーン事変について価値ある情報をまとめて紹介することとしたい.

 

①日産のカルロスゴーン逮捕の理由

 

→ゴーン追放はクーデターか…日産内で囁かれる「逮捕の深層」

 

※以下引用

 

日本を、いや世界を震撼させた「ゴーンショック」はなぜ起こったのか。長年自動車業界を取材し続け、ゴーン氏へのインタビューも何度も行ってきたジャーナリストの井上久男氏の深層レポート。

 

「重大な不正」の中身は?

日産自動車のカルロス・ゴーン会長が11月19日、金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。容疑内容は、虚偽の報酬額を有価証券取引書に記載していたこととされる。2011年3月期から15年3月期までの計5年間の役員報酬額が実際には99億8000万円だったのに、計49億8700万円と記載していたという。内部通報によって日産が社内調査、それを検察に情報を提供し、事件になった。

 

このニュースを聞いて、多くの人は「脱税目的か」と思ったに違いない。しかし、それは読み筋が違うのではないか。ゴーン氏はサラリーマン経営者であり、報酬は源泉徴収されており、日産から得られる報酬では脱税できない。また、ゴーン氏は日本には1カ月のうち1週間程度しか滞在せず、主にパリとニューヨークに住んでおり、住民票は日本にはないので、日本で住民税を払わない。

 

ゴーン氏がなぜ虚偽記載したのか、その動機は特捜部が今後捜査で解明していくのだろうが、虚偽記載してそれがばれなかったとしても、源泉徴収されているので、ゴーン氏には「実利」がない。なのに、なぜ虚偽記載したのか。

 

筆者は20年近く日産を取材してきた。これまでの取材や関係者の話から推測すると、ゴーン氏が虚偽記載した理由は、「自分の報酬を大きく見せたくなかったから」ではないか。

 

ゴーン氏に近い日産の元首脳が筆者にこう明かしたことがある。

 

「日本では報酬が10億円を超えるともらい過ぎと批判されるので、10億円は切るようにした方がいいとアドバイスを送った」

 

虚偽記載については、悪質なものではないのではないか、と筆者は考える。むしろ悪質なのは、日産もプレスリリースで認められているように、「会社のお金を私的に支出していた複数の重大な不正」の方だ。背任に近い行為かもしれない。

 

この重大な不正については、現時点での日産の社内関係者らの話によると、以下のようなことが推測される。

 

① 前妻との離婚の訴訟費用を会社の金から支払った可能性 

② ニューヨークなどに対外的に公表していないゴーン氏の個人事務所があり、その関連費用を会社の金から支払った可能性

 

あくまで可能性だが、この2点以外にも「フランスのベルサイユ宮殿を借り切って再婚相手と結婚式をしたが、その費用も日産が出したのではないか」(関係筋)との話も出て来るほどだ。

 

かねてより、こうした噂は日産社内では絶えなかった。それは、ゴーン氏が「カネに汚くて強欲」と一部の社員から捉えられていたからだ。

 

たとえば、日本で最初に自著『ルネッサンス』を出した時、印税は自分の懐に入れ、日本語訳や校正などで協力した日本人社員には分け前を渡さなかったという逸話が残っている。通常、大企業のトップが自分の実績を誇示する本を出した場合、印税は会社に入れるか、寄付するケースが多いが、ゴーン氏はそうではなかった。

 

ただ、こうしたゴーン氏の金銭にまつわる話や、公私混同ぶりは日産の役員や一部幹部の中では知られていた話で、なぜ、今になって「内部通報」が起こり、事件になったのか。本稿の主眼はそこにある。

 

はっきり言おう。これは「日産の社内クーデター」とみるべきではないか。さらに言えば、西川廣人社長兼CEOサイドがゴーン氏を引きずりおろすために、日産が検察当局と手を組んだ可能性もあるのでは、と筆者は見ている。

 

ゴーン氏の逮捕後に出てきた日産のプレスリリースの内容を見ると、この日を用意周到に待っていた節が窺える。

 

ゴーン氏が繰り返していた「説明」

ではなぜ、日産はゴーン氏を引きずりおろす必要があったのか。その理由について、日産の歴史を振り返りながら以下に解説しよう。

 

経営破たん寸前だった日産は1999年、ルノーから36・8%の出資を受け入れ、8000億円近いキャッシュを手に入れて倒産を免れた。その後、ゴーン氏が主導する「日産リバイバルプラン」などのリストラを実行して、経営再建を果たした。その後は、グローバル販売を着実に伸ばし、安定した収益が出る会社になった。

 

1990年代後半は、ダイムラーとクライスラーの経営統合、フォードのボルボ買収など合従連衡が相次いだが、いずれも提携は長続きせず、解消している。大が小を呑む、あるいは強者が弱者を呑む提携は、自動車産業ではうまくいかないケースが多い。開発思想など「文化」が違うため、経営統合しても「血液型不適合」となるケースがあるからだ。

 

こうした中、日産とルノーは経営統合ではなく、両社が技術や人材などリソースを持ち寄る「アライアンス(同盟)」という位置付けで、片方がもう一方を完全支配する提携ではないことが、関係が長続きした一因と見られてきた。筆者は朝日新聞記者時代も含めてゴーン氏には単独インタビューを何度もしてきたが、ゴーン氏自身もそうした説明を繰り返してきた。

 

ところが、その両社の提携に転機が訪れたのが2015年だ。ルノーの筆頭株主である仏政府が2年以上保有する株主の議決権を2倍にするフロランジュ法を適用して、ルノーへの経営の関与を高めようとした。日産は、仏政府がルノーへの関与を高めれば、間接的に自社にも影響が及ぶと判断、仏政府への対抗策を講じた。その一つが、ルノーと日産の提携契約の見直しだった。

 

見直したのは出資比率引き上げの際の手続きだった。現在、ルノーは日産に43・4%、日産はルノーに15%、それぞれ出資して株式を持ち合っている。日本の会社法上、日産がルノー株をさらに10%買い増して25%以上の出資比率にすれば、ルノーの日産に対する議決権が消滅する。

 

これまでの契約では日産がルノーへの出資比率を高める場合には、ルノー取締役会の承認も必要としていたのを、契約からその条項を消すことでルノーと合意。この契約変更によって、日産取締役会の決議のみでルノー株を買い増すことができるようになった。仏政府の影響が日産の経営に及んできた場合、株式買い増しを行なってルノーの議決権を消すことが狙いだった。

 

フランスが突きつけた「3つの条件」

さらに2018年に入り、「ポスト・ゴーン」を巡って仏政府が動き始めた。日産は16年に三菱自動車を傘下に収め、日産・ルノー・三菱の3社アライアンスが誕生。その後17年にはゴーン氏は日産社長兼CEOの座を西川廣人氏に譲った。ゴーン氏は現在、日産、三菱両社の会長とルノーCEO兼会長を兼務している。

 

加えて、日本ではほとんど知られていないが、3社アライアンスの共通戦略を決める司令塔の「ルノー日産BV」という会社が存在し、登記上はオランダ・アムステルダムにある。BVの経営トップは、ルノーCEOが兼務するとの内規がある。

 

実は今のゴーン氏は、このBV会長の仕事をメインとしていることから、グループ内では「アライアンス会長」と呼ばれている。しかし、ゴーン氏のルノー会長兼CEOの任期は18年までだったことから、ルノーCEOを退任すれば、このBV会長職も手放さなければならなかった。

 

日産や三菱のCEOではなくても、BV会長という3社アライアンスの戦略を仕切るポストに就いていることは、3社の事実上のトップと同じ意味があるため、ゴーン氏としてはBVトップの座は手放したくなかったと見られる。このため、ゴーン氏はルノーCEO職の座にこだわった。

 

こうした状況下で、フランスのマクロン大統領は、ゴーン氏にルノーCEOの任期を2022年までに延長する代わりに次の3つの条件を突きつけた。それは、

 

① ルノーと日産の関係を後戻りできない不可逆的なものにする 

② 後継者を育てる 

③ ルノーの現在の中期経営計画を達成させる

 

といった内容だった。ゴーン氏はこの条件を呑んでルノーCEO職に再任された。

 

この条件①があることから、ルノーと日産が経営統合に近い形で関係をさらに深めるのではないか、といった見方が強まっていた。持ち株会社の下にルノー、日産、三菱をぶら下げるといった見方も出ていた。こうした関係強化策をゴーン氏は18年度中にもまとめる動きを見せていた。

 

仏政府が特にこだわっていたのは条件①だ。なぜなら、今のルノーは日産からの配当や最新技術を当てにしなければやっていけないほど経営体力も商品力も劣化している。日産なしではやっていない会社になってしまった。見方を変えれば、日産にとってルノーが「重荷」になりつつあった。

 

このため、日産の西川CEOは、経営の独自性が維持できなくなるとして、これ以上ルノーの支配が強まることを嫌った。提携時にルノーから8000億円近い支援をもらったが、この20年近い関係の中で配当金としてルノーに「恩返し」しており、その額は優に8000億円を上回っている。

 

社員らの「反発」

仏政府やルノーが強引に日産への支配力を強めれば、西川CEOには、前述したようにルノー株を買い増して日産への議決権を消滅させる強硬策も視野に入っていたと見られる。この強硬策を実施するには、日産の取締役会での多数決で、「西川派」を過半数にしなければならない。

 

日産の取締役会のメンバー9人は次の通りだ。

 

このうち、西川派は、坂本氏、井原氏、豊田氏と見られ、西川氏自身の票を入れて4票しかなく過半数を取れない。ゴーン氏はCEOを西川氏に譲ったとはいえ、取締役会メンバーは巧みに構成し、自分の意向が通る人選にしていた。

 

たとえば、前COOの志賀俊之氏は、一時収益が落ちた際に先任を取る形でCOOは退き、産業革新機構CEOに転出したが、取締役では依然として残ったままだ。これは、「志賀氏と西川氏が犬猿の仲であることをゴーン氏が巧みに利用して、志賀氏を残すことで西川氏を牽制する意味合いがある。元々、志賀氏は、ゴーン氏とは非常に親しく、ゴーン氏の戦略ミスを志賀氏が責任をかぶってCOOを退任した経緯もある」(日産関係者)との見方がある。

 

極めつけは、グレッグ・ケリー氏の存在だ。「ケリー氏は代表権を持つ取締役でありながら日産で勤務している形跡がなく、実際には海外で牧場経営をしている。ゴーン氏が公私混同で会社の金を使うための筋書きをアドバイスするなどの『悪知恵袋』」(同)と見られている。

 

今回の事件でも、ケリー氏が不正に深く関与したとされている。ゴーン氏とケリー氏を日産取締役会の中から追い払えば、西川氏は過半数を取れると踏んだ、と見られる。

 

西川氏サイドが「クーデター」を仕掛けたとすれば、彼らにも焦りがあったからではないか(注:西川氏は緊急会見で「クーデターではない」と発言)。昨年に発覚した完成車検査不正問題も、日産の社内不満分子が国土交通省に情報提供したことが発端と見られ、車検制度にもつながる時代遅れの古い制度を残したい国土交通省が、それに乗りかかって日産を叩いた。

 

社内の不満は、ゴーン氏ら一部の外国人が高給を取り、会社の金で贅沢三昧なのに、現場への投資は怠っていることへの反発であった。ゴーン氏自身が長期政権で権力の座に長くいて、腐り始めていたことは間違いない。

 

こうした社内の不満を放置していれば、不満の矛先はいずれ西川氏自身に向かってくる……西川氏サイドはそう判断したのではないか。真相解明には時間がかかるだろうが、それが今回の事件の背景にあるというのが、筆者の見方である。

 

②日産がカルロスゴーン逮捕を仕掛けた可能性

 

→ゴーン追放はクーデターか…日産内で囁かれる「逮捕の深層」

 

※以下引用

 

「ルノーの乗っ取り」を防いだ日産の苦悩

 

日産自動車で19年にわたり経営トップとして君臨したカルロス・ゴーン会長が金融商品取引法違反で逮捕され、11月22日にも会長を解任される見通しだ。ゴーン氏は1999年に瀕死の状態の日産をV字回復させ、日産、ルノー、三菱自動車のグループを世界最大規模に拡大した。ゴーン氏というカリスマ経営者を失った日産はどうなるのか――。

 

2018年11月19日、記者会見を終え、退席する日産自動車の西川広人社長。(写真=時事通信フォト)

「ゴーン・チルドレン」の西川社長はなぜ掌を返したのか

カルロス・ゴーン会長の逮捕容疑は2010年度から5年間の役員報酬が実際は99億9800万円だったのに49億8700万円と有価証券報告書にうその記述をしていた疑い。多額な役員報酬に対する社会的な批判をかわすため、海外の高級マンションなどの形で毎年10億円程度の便宜供与を受けていた模様だ。発覚したのは日産社内の内部通報制度による内部告発だった。

 

もしもゴーン氏が東京地検特捜部の発表内容通りに不法行為を実行していたとしたら、企業経営者としてはあるまじき行為である。1999年以降、19年にわたり日産トップに君臨し、最近では独断専横が目立つ絶対的な権力者となっていたゴーン氏。そのゴーン氏を西川広人社長ら経営陣が数カ月の社内調査でトップの座から追い落とした形である。

 

西川社長はゴーン氏に目をかけられ、引き上げられた「ゴーン・チルドレン」の一人。その西川氏が掌を返したように歯向かったのはなぜだろうか。

 

ゴーン氏と仏政府の「密約」から疑心暗鬼が生まれた

日産の社内事情に詳しい自動車業界の元メーカー役員はこう説明する。

 

「今年2月にルノーの大株主であるフランス政府との間で、ゴーン氏がルノーCEOの任期を2022年まで延期することが決まった時に『密約』が交わされたのではないかと日産社内で噂された。そのころから疑心暗鬼が西川社長らに生まれ、それまでの関係がぎくしゃくし始めたとみられている」

 

少し説明が必要である。1999年に日産はルノーから6430億円の出資を受けるとともにゴーン氏らが経営陣に加わり再建を目指した。当時のルノーの日産株の持ち株比率は36.8%だったが、その後43.4%に引き上げられた。一方、日産はルノー株を15%保有している。

 

倒産さえ危ぶまれた日産を救済したのがルノーだったが、企業規模や保有する技術などを比較すると、日産の方が優位に立っているという思いが日産側には常にあった。両社のアライアンスが進み、業績が回復してくると日産側にはルノーに対し、日産の利益が大株主であるルノーに吸い取られているという思いが強くなっていった。

 

ルノーの経営にとって日産はなくてはならない存在

最近ではルノーの純利益の半分程度は日産からの利益であり、ルノーの経営にとって日産はなくてはならない存在だった。

 

ルノー株の15%を持つ大株主であるフランス政府は徐々に日産とルノーを統合させて、ルノーの経営を盤石にしたいと考えるようになり、2014年ごろから揺さぶりをかけ始めた。2015年には2年以上保有する株式の議決権を2倍にする「フロランジュ法」が制定され、フランス政府が30%の議決権を行使し、ルノーと日産の経営に強く関与する構えを見せた。

 

こうした動きにゴーン氏は日産の経営の独自性維持を主張した。日産にとってゴーン氏は盾の役割を演じていた。

 

「2022年までにルノーと日産の統合を進める」という密約

ゴーン氏のルノーCEOの任期は2018年までだった。再びフランス政府が動き出した。今年の2月、フランス政府はゴーン氏に3つの条件を提示し、CEOの任期を2022年まで延長することを認めた。3つの条件とは以下の通りだ。

 

「密約」というのはこの3条件に加え、2022年までにルノーと日産の統合を進めるという内容だった、というのだ。

 

もしもそんな密約があるなら、当然日産は猛反発する。それまではフランス政府に対し日産の盾となっていたゴーン氏だったが、CEOの任期延長を勝ち取るためにフランス政府に譲歩したのではないかと西川氏らは疑心暗鬼に陥ったという見立てである。

 

先述した元メーカー役員の発言はこの頃からゴーン氏と西川社長ら日産経営陣との間の関係がぎくしゃくし始めたという解説だった。

 

日産は仏政府への対抗策を経産省と協議していた

今年の春ごろからは日産側はフランス政府が統合に動き出した場合の対抗策について経産省と協議し始めた節がある。そういう動きが日産社内に浮上したときに、ゴーン氏らの不正をただそうとする内部通報があった。

 

この2つの動きが連動したものなのか、たまたま現場で有価証券報告書の処理などを担当していた正義感を持った社員が内部通報しただけなのかは不明である。

 

だが今回の事態の推移をみると、この2つの動きが結果的には相互に補完し合い、一気にゴーン氏を追い落とすという動きになったとはいえる。

 

捜査の行方が見定まらない段階で次を予測するのは難しい。ただ東京地検はゴーン氏らの個人的な刑事責任だけでなく、法人としての日産の責任を追及する方向のようだ。もしもそうなれば、ゴーン氏を追い落とし、フランス政府の介入を防ごうとした経営陣らも責任を取らざるを得ず、今後の経営に主導権を持つことは難しい。

 

今後の体制づくりを主導するのは経産省OBの豊田氏か

ゴーン氏なき後の日産の経営体制がどう形成されるかは見通せない。ただ西川社長は19日の記者会見で今後のガバナンス体制について独立社外取締役らが中心となる第3者委員会で検討すると語った。

 

独立社外取締役は過去にルノーで働いたことのある人物と元経産審議官の豊田正和氏、レーサーの井原慶子氏の3人だ。すでに日産は経産省と連絡を取っているとみられ、今後の体制づくりを主導するのは経産省OBの豊田氏であろう。

 

一方、ルノー側の動きも不透明だ。ルノーの取締役会は20日、ゴーン氏の解任を先送りし、フィリップ・ラガイエット独立取締役を暫定会長に、ナンバー2のティエリー・ボロレCOOを暫定副CEOに据え、事態の推移を見守る姿勢を見せた。

 

起訴もされていない段階で「解任まではできぬ」という判断だったのだろう。また捜査の進展で事件の核心がどこにあるかが見えてこないと、日産経営陣との協議をするにしても誰と今後の話し合いをすればいいのかも分からない。

 

日産の運命はもはや政府に握られつつある

日産の川口均専務執行役員は11月20日、首相官邸で菅義偉官房長官と面会し、現状を伝えた。官房長官に民間企業の役員が自社の経営状況について説明に行くのも異例である。そこまで日産は追い込まれているのかもしれない。

 

同じ日、世耕弘成経済産業相とルメール仏財務相は電話で協議し、共同声明を発表した。内容は「日仏両政府は両国の産業協力の偉大な象徴の1つであるルノー・日産連合を力強く支援することを再確認した」というものだった。

 

日産の運命はもはや政府に握られつつある。フランス政府の出方次第では、経産省に根強い「日の丸自動車メーカーを守る」という論理が前面に出てくるかもしれない。その場合は日仏政府の対立が激しくなるだろう。

 

このまま時間を費やせば、19年間の再生努力は無になる

だが一方で、19年続いた日産とルノーの連携でプラットホームや部品の共通化は進み、グローバルな工場の連携体制も進んだ。自動運転などの技術開発の連携も深まっている。簡単には両社の関係を大きく変えることができない現実もある。

 

東京地検の動き、フランス政府の動き、日産社内の動き、経産省の思惑……。複雑な連立方程式をどう解いていくのか。短時間に解ける問題ではなさそうだ。

 

世界の自動車産業は電動化と自動運転などの進展で激しく、スピード感ある変化が起きている。そんな状況下で世界最大級の規模を誇る日産、ルノー、三菱自動車のグループだけが、経営体制が明確にならないまま時間を費やせば、競争力を大きく損なうのは目に見えている。19年間の再生努力を今回の事態は無にしかねない。

 

 

③日産の組織文化とカルロスゴーン逮捕の背景

 

→ゴーン追放も納得!謀略とリークの「日産クーデター史」

 

※以下引用

 

瞬く間に世界を駆け巡った「ゴーン逮捕」の一報。記者会見で西川廣人社長はクーデターを否定したが、日産の過去の歴史をひもとけば、相次ぐクーデターはもちろん、会社から金をむしりとって豪遊し、世間を騒がせた労組会長など、ゴーン氏を彷彿とさせる人物も登場する。これが日産のカルチャーなのである。(ノンフィクションライター 窪田順生)

 

クーデター説から元妻刺客説まで

ゴーン逮捕で情報飛び交う

逮捕された日産のカルロス・ゴーン会長

過去数十年の日産の歴史を振り返ると、クーデター(未遂も含む)が何度も起きたほか、強権を握った上に会社のカネで豪遊しまくった労組会長がいたなど、今回のゴーン氏追放劇が決して珍しい出来事ではないことが分かる Photo:Reuters/AFLO

 こりゃどう見てもクーデターだろ、と感じている方も多いのではないか。

 

 日本のみならず、世界的にも大きな注目を集める「ゴーン逮捕」。連日のように、逮捕前にゴーン氏がルノーとの経営統合を検討していたとか、日産幹部が捜査当局と司法取引をしていたとか報じられるなど、組織ぐるみの「ゴーン追放」を補強する材料が続々と飛び出している。

 

 自動車業界で綿密な取材をすることで知られるジャーナリストの井上久男氏をはじめ、日産社内に多くの情報ソースを有する人々からも同様の見立てが相次いでいる。そこに加えて、ここにきて元検事の方などからは、「別れた元妻」が刺したのではという憶測も出てきている。

 

 権力者のスキャンダルや不正行為の多くは、敵対する勢力より、「身内」からリークされる。離婚の訴訟費用が日産から出ていたという話もあるので、「ゴーン憎し」の元妻と、「ゴーン追放」を目論む幹部の利害が一致して「共闘」をしたのでは、というわけだ。

 

 一方で、これらのストーリー自体が、ゴーンやルノー側の「スピンコントロール」(情報操作)である可能性も全くのゼロではない。

 

 ご存じのように、不正やインチキが発覚した経営者が潔白を訴える場合、「私を貶めるためのデマだ」などと主張するのがお約束である。

 

 筆者も記者時代、そのように解任された元・経営者の方たちから、「ハメられた」「裏切られた」というような訴えをよく聞かされて辟易した思い出がある。いつの時代も「クーデター説」は権力闘争時に飛び交う定番コンテンツなのだ。

 

 今後、もしゴーン氏が潔白を主張する場合も、日産をルノーから守るための「国策捜査」だとか、日本人経営陣らにハメられたというストーリーがもっとも適しているのは言うまでもない。つまり、「クーデター」の既成事実化は、図らずもゴーン氏へのナイスアシストとなってしまうのだ。

 

ゴーン体制誕生のきっかけも

「クーデター」だった

 事実、たった1人で1時間半の会見を乗り切って男を上げたといわれる、西川廣人・日産社長も「不正が内部通報で見つかり、そこを除去するのがポイント。クーデターではない」と断言するなど、あくまでゴーン氏は不正によってパージされたというスタンスを崩さない。

 

 だが、日産という組織のカルチャーに鑑みると、こういうことを声高に主張されてもあまり説得力がない。自動車業界の方なら周知の事実だが、この会社の歴史は、クーデターの歴史といっても過言ではないからだ。

 

 まず、記憶に新しいところから振り返ると、昨年発覚した「完成車検査不正問題」がある。

 

 先ほどの井上氏も指摘しているが、これはゴーン氏ら経営陣が品質検査部門をリストラしたことに対する意趣返しとして、社内の不満分子が国土交通省に通報したことが発端だといわれている。不正自体は以前から行われていたのに、西川氏の社長就任から程なくというタイミングでリークされたということは、「西川おろし」を掲げたクーデター未遂事件といってもいい。

 

 今でこそ「権力の集中」と叩かれるゴーン体制だが、そもそもたどっていくと、これを生み出したのもクーデターだった。

 

 1999年、経営難に陥った日産を立て直そうとダイムラークライスラーやフォードも巻き込んだ外資交渉を進め、最終的にはゴーン氏をはじめ、ルノーから3人の幹部を役員として迎え入れたのは当時の社長、塙義一氏なのだが、実はこのルノー傘下入りは、相談役である歴代社長らに事前の相談もなく決められた。そのため、「ある種のクーデターといってもいい」(日経産業新聞1999年6月28日)と評されたのだ。

 

 また、経営危機を招いた要因のひとつが、戦後からこじれにこじれた労使関係だといわれているが、ここでも社会主義国家を彷彿とさせるような劇的なクーデターが起きている。

 

 日産中興の祖として知られ、1957年から16年という長期間、トップに君臨した川又克二氏の「労使協調路線」によって絶大な権力を握ったのが、日産グループ労組である「自動車労連」の塩路一郎会長である。

 

ゴーン氏とソックリ!

強権×銭ゲバだった労組会長

 塩路氏は、川又社長との蜜月関係を武器にして、人事、新車開発、国際戦略という経営にも介入し、塩路氏が首を縦に振らない限り何も進められないというほどの権力を手中に収め、社内で「塩路天皇」などと恐れられるほどになっていたのだ。

 

 だが、そんな「労組のドン」が強烈な“紙爆弾”に見舞われる。

 

 1984年1月に発売された写真週刊誌『フォーカス』(新潮社)の「日産労組『塩路天皇』の道楽―英国進出を脅かす『ヨットの女』」というタイトルで、その豪勢な暮らしぶりと、若い美女とヨット遊びに興じる写真が掲載されたのだ。

 

 当時の写真週刊誌の影響力は絶大で、今とは比べ物にならないほどパンチがあった。後に高杉良氏の小説「労働貴族」でも描かれた強権と豪遊ぶりは、世間からボコボコに叩かれた。

 

 そして1986年2月22日、塩路会長は日産労組によって退陣要求決議を突きつけられ、「労働界から引退する」と表明するように追い込まれたのである。

 

 この事件は「2・22クーデター」(日本経済新聞1986年3月17日)と呼ばれたのだが、実はこれを背後で仕掛けたのが、川又氏の後に社長に就任し、英国進出などグローバル経営へ舵を切ったことで、塩路会長と激しく対立していた石原俊社長だといわれている。

 

 もちろん、日産はオフィシャルには、このような黒歴史を一切認めていないが、組織内で誰もが顔色をうかがうほどの強権を握り、常軌を逸したレベルで富をむさぼった挙句、内部リークによって引退に追い込まれる、という点では、ゴーン氏の追放劇と丸かぶりなのだ。

 

 さらに、もっと過去へと遡っていけば、「労働貴族」を追放した石原社長も、かつてはクーデターの憂き目にあっている。

 

 石原氏がまだ常務だった1969年、「日産エコー事故」というのが世間を騒がせた。高速道路で、エコーというマイクロバスの横転事故が立て続けに発生。それがシャフトの「欠陥」によるものだということが明らかになって、東京地検も捜査に動いたが、最終的には不起訴とされた。

 

組織に染み付いた「体質」は

簡単には変わらない

 その騒動の最中、「朝日新聞」にこんなスクープが掲載された。

 

『「日産エコー事故」社内から(秘)通報 対策決め九ヶ月放置 東京地検に“警笛”1号 上層部も追求へ』(朝日新聞1971年2月27日、(秘)は丸囲み文字)

 

 実は、事故の9ヵ月前、「配布先」として石原氏ら上層部の名前が記された、エコーの欠陥の原因と対策を決定した社内資料が存在していた。それが、「日産関係者」から東京地検特捜部検事の元へ持ち込まれたというのだ。

 

 当時はまだ、マスコミと検察がズブズブでも何の問題もない時代だったので、検事に持ち込まれたはずの内部資料は新聞の一面にドーンと大きく掲載された。誰が見ても、上層部の一掃を狙ったクーデターであることは明らかだった。

 

 表沙汰になっているだけでも、これだけのクーデターや、クーデター未遂がある。誰かが権力を握ると、誰かが背中を刺し、誰かに権力が集中すると、その人間の悪い話を捜査機関やメディアに持ち込むということが、この40年間、延々と繰り返されているのだ。

 

 確かに、不祥事が起きたらそれをネタに経営陣を引きずりおろすとか、暴君をみんなで協力して追放するなどということは、どこの会社でも起きることだが、日産がかなりレアなのは、会社の進むべき道が大きく変わるような重要なタイミングで、必ずといっていいほど「クーデター」が起きているということだ。

 

 先ほど述べた、日産の歴史はクーデターの歴史というのが決して大袈裟な話ではないことが、わかっていただけたのではないだろうか。

 

 そう聞いても、「過去にクーデターが多いからといって、今回のゴーンもそうとは限らないだろ」という反論もあるかもしれないが、長く不祥事企業のアドバイスをしてきた立場から言わせていただくと、組織内で一度染み付いた「クーデター体質」というものは、なかなか変えることができない。

 

 同じような隠蔽を繰り返した三菱自動車、データ改ざんが何十年も現場で脈々と受け継がれていた神戸製鋼を例に出すまでもなく、「組織カルチャー」というものは、ちょっとやそっとでは変わらない。

 

容疑段階で「ゴーン批判」全開

西川社長会見の異常さ

 パワハラ上司に鍛えられた新人が、上司になると自然と部下にパワハラをしてしまうように、大企業という巨大コミュニティ内のカルチャーや価値観というのは、世代を超えて受け継がれるものなのだ。

 

 例えば今から10年くらい前、ちょっとした不祥事に見舞われた、ある企業から相談を受けたことがある。その時、社員の皆さんが社長に言いたいことを言えない、どこか恐れているような印象を受けた。実際、不祥事というのも、社内の風通しの悪さが招いたものだった。

 

 その会社を最近、久しぶりに訪れた。社長も代替わりしていて、すごくフランクな人になっていたにもかかわらず、その社長さんは「うちの社員は大人しくて、なかなか意見を言わない」などと愚痴っていた。

 

 社会の荒波に揉まれている大人の皆さんならば身に染みていると思うが、人間の性格というのはなかなか変わらない。頑固な人はどこまで行っても頑固だし、いい加減な人は「心を改めました」と宣言しても、やっぱりいい加減だったりする。

 

 そんな人間の集合体である「法人」の性格というのも、なかなか変わらないのである。

 

 過去にこれだけ血みどろのクーデターを繰り広げて、ここまで成長した日産という法人が、外国人経営者が入ったくらいで、ガラリと性格が変わる、と考える方がおかしいのだ。

 

 今回の会見で、まだ容疑段階であるにもかかわらず、激しい「ゴーン批判」を繰り広げた西川社長を、ネットでは「男らしい」ともてはやしている。確かに、もの言いがはっきりしているのは悪いことではないが、企業の危機管理的にはかなり型破りだ。いや、「異常」といっていい。

 

「逮捕=有罪」ではない。いくら不正をしていた証拠を掴んだにしても、司法の判断はこれからなのに、企業が元経営者をここまで激しく批判するのはかなり珍しい。

 

 東京地検特捜部は極めて国策色の強い捜査機関である、ということを踏まえれば、グローバル企業である日産からすれば、もっと慎重なもの言いもできたはずだ。しかも、攻撃相手は一役員ではなく、かつてこの企業の全権を握っていた人物で、西川氏は長く側近として仕えた。自分たちにも延焼しかねない話であるにも関わらず、自信たっぷりに悪者をゴーンだけに限定できるのは、よほど何か大きな「保険」があるとしか思えない。

 

西川社長の上司は

クーデターを生き抜いた人物

 では、そんなダイナミックな危機管理をした西川社長とはどんな人物か。

 

 日産のホームページにある略歴は、1977年に入社の次は、1998年に欧州日産会社となっている。入社後21年間、40代前半までのキャリアの詳細はわからない。ビジネス誌のインタビューでは長く購買畑を歩んできたと記されているが、実は秘書の経験もあることはあまり知られていない。

 

 1992年に社長に就任した辻義文氏の社長・会長時代に秘書を務めたとして、「日本経済新聞」(2007年3月9日)で、在りし日の辻氏の思い出を語っていらっしゃる。

 

 辻氏といえば、「労働貴族」へのクーデターを仕掛けた石原氏の拡大路線を引き継いだ久米豊社長からバトンを受け継ぎ、日本の製造業の縮小均衡の先鞭をつけたといわれる「座間工場閉鎖」を断行したことでも知られている。

 

 また、辻氏が4年の社長在任を経て後を託した塙社長は、先ほども触れたように、ルノー傘下入りというクーデターを仕掛けている。

 

 秘書として、クーデターを生き抜いてきた日産経営陣を間近に見てきた西川氏が、社長になって程なくして、「ゴーン追放」という新たなクーデターで渦中の人となる、というのも何かの巡り合わせのような気がしてならない。

 

「まわる、まわるよ、時代はまわる」という歌があったが、これまで見てきたように、日産のクーデターもぐるぐると因果がまわっている。

 

 過去に学べば、ゴーン追放は次なるクーデターの号砲になる可能性は高い。日産の内部には、こうしている今も、「次に刺されるのは俺かも」と震えている人がいるのではないか。

 

④日産のカルロスゴーン逮捕に動いた日本の検察と司法の闇

 

→ゴーン逮捕で想定される最悪の反撃シナリオ

 

※以下引用

 

岩崎 博充 : 経済ジャーナリスト

 

日産自動車のカルロス・ゴーン元会長の逮捕は、日本、フランスのみならず世界中を驚かせた。いまさらゴーンの業績については言うまでもないだろうが、「ルノー・日産・三菱」の3社アライアンス(提携)は、世界第1位の自動車グループへと駆け上がる可能性も秘めていただけに、その影響は計り知れない。

 

海外と日本の大手メディアの論調

今回の逮捕劇の是非については、まだ結論づけることは到底できないだろうが、日本国内の大手メディアはゴーン個人の犯罪として、特捜部が提供した情報をどんどん流している。一方、海外メディアは日本とはまったく異なる視点での報道が目立つ。

 

 

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「日本人の陰謀」「クーデター」といった論調が目立つ当事国フランスのメディアは言うまでもないが、第三国である英国のBBCでさえ「逮捕、拘留、解任は冷静に計画された悪意ある攻撃」ではないのか、という声を紹介している。

 

日本国内でも、「カルロス・ゴーン氏は無実だ」と主張する識者も出始めている。現状のルノー・日産・三菱のアライアンスがこのまま継続していくと考えるのは、楽観的だと予測する専門家も少なくない。

 

自動車業界は、EV(電気自動車)への転換期に当たるこの時期、単独の企業によるイノベーションで勝ち抜けられる時代ではなくなっている。今後は、国境の壁を乗り越えて先進技術を持った企業と共同開発していくことこそが、自動車会社が生き残れる唯一の道だとさえいわれている。

 

そんな中で、ルノーが強引に株式の過半数確保を狙って統合を迫ってくる可能性もある。その一方で、経営統合できなくなった場合には日産株を第三者に売却してしまうシナリオも十分に考えられる。

 

場合によっては、日産の経営陣を全員追い出して、ルノーが全経営陣を入れ替える画策をするかもしれない。あるいは、日産側に重大な裏切り行為として莫大な損害賠償金を請求してくる可能性もある。

 

問題は、日産だけではない。日本流の「自白」に頼った捜査方法で、国際的な経営者を逮捕、長期拘留している現状に対して、国際的な批判が噴出する可能性もある。ゴーン逮捕がもたらす負の部分があまり報道されていない中で、今後、想定できる日産や特捜部が意図しないシナリオを中心に考えてみたい。

 

有価証券報告書虚偽記載は「故意犯」?

そもそもゴーンの容疑は「金融商品取引法=有価証券への虚偽記載」で、最高で懲役10年という重い罪だ。金額が大きいとはいえ容疑者を逮捕、長期勾留が必要だったのか。とりあえず別件逮捕して、そのうえでの「自白」による起訴を日本の特捜部は狙っているように見える。

 

たとえば、同じ金融商品取引法違反で摘発されることの多いインサイダー取引などは在宅起訴されることが多い。少なくともフランスでは、有名人であろうがこの程度の犯罪では、最長でも4日程度の拘留で釈放される。

 

にもかかわらず、日本の特捜部は最短でも20日間程度の拘留を目指して、ゴーンを逮捕したといわれており「自白」以外の明白な証拠をきちんと押さえているのか、日産側の主張を鵜呑みにしているのではないかという疑惑も出てくる。

 

いずれにしても、今回の逮捕劇は日本で働く外国人にとって少なからずショックを与えたことは間違いないだろう。日本人同様に微罪で逮捕されて、数十日間拘留されるのではないか、その間に自白を強要されるとすれば、日本の司法システムに恐怖感を覚えるはずだ。

 

そもそも今回の逮捕劇によって、今後何がテーマになっていくのかをまず整理する必要がある。大きく分けて3つある。

 

① ゴーンの容疑は有罪にできるのか?

② ルノーによる日産支配のシナリオはどうなる?

③ ルノー、ゴーン側の日本への反撃はないのか?

まずは、今回の特捜本部が狙ったシナリオどおりに、ことが進むのかどうかだ。日本では特捜部や日産からの情報提供によって、数多くの疑惑が報道されているが、海外では証拠もなしに軽々しく報道はしない。そう考えると、メディアの報道も鵜呑みにしてはいけないような気がする。

 

たとえば、ゴーンが得た報酬のうち、メインは80億円余りを有価証券に申告していなかったという疑惑だが、どのメディアも「脱税」という文字を使っていない。ということは、特捜部が当初から「脱税容疑」での立件は考えていないことを意味する。

 

自白などによって立件できればする、という消極的なものかもしれない。

 

あと残るのは、特別背任罪や横領ということになるが、これもオランダ子会社を設立して、この子会社の資金でリオデジャネイロやベイルートの物件を購入。ゴーンに無償で提供されたことになっている。ただ、連結にも入っていない子会社を舞台に、10兆円超の売り上げがある企業の代表権を持つゴーンの特別背任罪が問えるのか、という疑問が出る。

 

同様に、パリやアムステルダムの物件が、ゴーンの自宅として日産の別の子会社が提供していたことが問題視されているが、ゴーンほどの経営者に対する住宅供与としては社会的常識の範疇という解釈もできるかもしれない。

 

まだ、今後の捜査で何が出てくるのかわからないが、司法取引まで使って内部告発を摘発したという特捜部が考えるシナリオは、そう簡単な事案ではないだろう。

 

最も大きな問題は、有価証券報告書虚偽記載という犯罪は「故意」であることが、犯罪を成立させる犯罪構成要件のひとつとして求められている。知らないで不記載だった、とゴーンが主張すれば、検察は「知りながら記載しなかった」ことを証明しなければならない。

 

仏政府、ルノーの反撃はどう来る?

さて、今回の逮捕劇のベースとなった日産と三菱をルノーに経営統合するというプランだが、ルノーの株式の15%、議決権の30%(フランスの法律で2年以上保有する株式の議決権は2倍になる)を保有するフランス政府が強く要望しているといわれている。

 

フランス政府は、ゴーンの逮捕によって簡単にあきらめてしまうのだろうか……。日産自動車としては、現在ルノーに握られている43%の議決権を「これ以上増やさない」もしくは「現在の15%の株式保有残高を25%まで増やしてルノーの議決権を無効にする」といった方法が考えられる。

 

日産はルノーがいなくてもなんとかなるが、ルノーにとっては昨年の収益の4割が日産自動車からの配当であることを考えると、生き残りをかけて日産との経営統合を画策してくることが考えられる。ルノーの筆頭株主はフランス政府であり、そういう意味では資金的には融通が利くはずだ。お互いの株式の購入合戦になると、日産とはいえその資金力に問題が出てくるかもしれない。

 

今後の展開次第では、TOB(株式公開買い付け)や、LBO(レバレッジド・バイアウト)といった「プロキシーファイト(委任状争奪戦)」が繰り広げられる可能性もある。また、「ルノーVS.日産・三菱」の戦いだけではなく、今後はそこに第三者が割り込んでくる可能性もある。

 

ルノーはゴーンの外交手腕によって、さまざまな形での新しいビジネスの目が生まれている。ロシアのプーチン大統領から要請を受けた形でルノーと日産でロシア最大の自動車メーカー「アフトワズ」を完全子会社化しようとしており、さらに中国の国有自動車メーカー「東風汽車集団」との提携も決めている。

 

ルノーが、簡単にゴーンを会長職から解任しなかったのも頷けるというものだ。

 

仮に、資本の持ち合い競争になったときに日産側に勝算があるのかどうか。当然、そこまできちんと計算して日産側が反旗を翻したのだろうが、事態はしばしば想定外のところで起こる。日産のような4兆円程度の時価総額しかない企業は、何かことが起こればM&Aの格好のターゲットにされやすい。

 

これまでは「仏政府対ルノー・日産・三菱」だったのが、今後は「仏政府・ルノー対日産・三菱」という構図になっていく。

 

現在の日産の持ち株比率は、ルノーの43.4%(2018年9月現在、以下同)を最高にして、自社株が7.33%、チェース・マンハッタン銀行3.42%、そして日本マスタートラスト信託銀行、日本トラスティ・サービス信託銀行、日本生命といった会社が続く。

 

自社株とルノーの持ち株で50.7%に達しているのだが、ルノーが7%の株式を市場から、あるいはほかの投資会社から手に入れれば、過半数を抑えることになり、現在の役員をすべて解任して、新しいトップを置くことも可能になる。

 

ちなみに、会社支配に必要な株式数は通常は50%超でいいのだが、拒否権を持つ黄金株などがあれば議決権の3分の2以上を確保しておく必要がある。とはいえ、上場企業のような不特定多数の株主が多い場合は、20~30%の議決権でも会社を実行支配できるといわれる。

 

日産自動車が日本企業のままでいることのほうが将来性は高いのか、それともフランスのルノー傘下に入ったほうが企業としての成長性は高いのか……。そこはビジネスの理論が優先して、企業の国籍は二の次になるのかもしれない。

 

大株主であるルノーがこのまま黙っているとも思えない。ある程度の準備をしたうえで、海外メディアで「日産のブルータス」といわれる西川廣人社長やそれ以外の経営陣に対して、何らかの形で報復をしてくる可能性がある。

 

日本政府にゴーン逮捕の正当性について説明責任は?

一方、フランス政府の動きにも注目する必要がある。

 

マクロン仏大統領は、自国第一主義を標榜するトランプ米大統領に面と向かってグローバリズムの重要性を唱える政治家だ。支持率が落ちていることもあって、そう簡単に日産、三菱連合をあきらめるとは思えない。

 

しかも、今回のゴーン逮捕はフランス大使館の神経を逆なでするようなタイミングで行われている。日仏友好160周年記念行事期間中の逮捕となり、フランス政府はメンツを潰されたと言える。

 

もう1つ疑問に残るのが特捜部の狙いだ。海外メディアでは、盛んに日産自動車がルノーに経営統合されて不可逆的な形で「フランスの日産」になってしまうことを阻止するために特捜部が動いたのではないか、そんな憶測が広がっている。

 

もし本当にそうであれば、これは権力による民事介入になる。ゴーン逮捕直後、特捜部が「(逮捕容疑の)ほかに意図して動いたわけではない」 といった声明を発表したが、裏側には何らかの意図があるという見方もできる。

 

ルノー、日産そして三菱の3社がどうなるのか。今後の成り行きは不透明極まりないが、ここまでは日本の特捜部と日産のルノー出身以外の経営陣にとっては思惑どおりなのかもしれない。とはいえ、日産自動車そのものも法人として「金融商品取引法」で罰せられることになるだろうし、日本人経営者を「司法取引」で救済したことが、はたして裁判で正当化されるのかが問題になる。

 

また、このままゴーン側が何もせずに反撃しないとはとても考えられない。ゴーンの裁判も、保釈後に帰国して来日を拒否しても、裁判を維持できるだけの証拠をそろえておく必要がある。ゴーン逮捕直後に、フランス大使自らゴーンに接見したことを見ても、彼がフランスにとっても特別な人であることは間違いない。

 

特捜部がリークする情報を流し続けている日本のマスコミも、ルノーやゴーンからの損害賠償請求に飛び上がるかもしれない。国際問題に発展したときに、特捜部や日産はゴーン逮捕の反撃シナリオに備えておく必要があるだろう。

 

TOB(株式公開買い付け)合戦になる

フランス政府やゴーン率いるルノーが、日産・三菱連合に対してどんな報復手段を取ってくるのだろうか。第三者が登場してくる可能性はないのか。今後、考えられるいくつかのシナリオを紹介してみよう。

 

① TOBを仕掛けられる

 

TOBは、友好的買収、敵対的買収に際して行われる手法で、詳細は省くが市場外で上場企業の5%を超える株式を取得して、株式市場内で買い集める分と合わせて10%超取得した場合、最終的に議決権の3分の1を超えて株式を買い集める場合は「TOB」が必要になる。

 

ルノーが日産に対して会社を合併できる3分の2の議決権を目指してTOBを仕掛ける、あるいは日産がルノーに対して議決権を解消できる25%の解消を目指してTOBを仕掛ける、といったことも考えられる。現実的にはなかなか難しいことかもしれないが、株式市場ではよくあることといっていい。場合によっては、互いに自社株買いやTOBを掛け合って、議決権確保に奔走することになる。

 

そこで、問題になるのが「時価総額」の規模になる。

 

時価総額の小さな企業がより大きな企業を買収するケースはよくあることで、時価総額約4兆円の日産自動車に対して、約2兆7000億円程度のルノーが買収=完全支配に動く可能性も考える必要がある。しかも、ルノーにはバックに仏政府の存在がある。

 

日本で最初に行われた敵対的TOBは、1999年5月に行われた英国の「ケーブル・アンド・ワイヤレス(C&W)」による「国際デジタル通信(IDC)」買収だったといわれている。NTTによる買収がうわさされていたときに、横からさっとTOBを仕掛けて、伊藤忠商事などの大株主もその買収提案に乗ったケースだ。

 

C&Wのバックには英国政府の後押しがあったといわれており、しばしば政府によるバックアップがTOBの成否を決める。

 

ひょっとしたら、EV(電気自動車)時代の到来を見据えて中国のアリババや韓国のサムスン電子あたりが、日産やルノーに対してTOBを仕掛けてくる可能性もあるかもしれない。投資会社などから見ても、今回のようなスキャンダルにまみれた日産やルノーは「M&A(企業買収)」の格好の対象となるかもしれない。

 

ちなみに、こうした会社の支配権を求めて戦うことを「プロキシーファイト(委任状争奪戦)」というが、日本企業は概して不慣れで経験も少ない。

 

② ルノーが日産自動車株を第三者に売却する!

 

ルノーにとって日産や三菱とのアライアンスは必要不可欠、と読んでのゴーン排除を進めたのだろうが、ルノーにとって3社アライアンスは、あくまでもゴーン会長というカリスマ経営者の存在があってのことだ。ゴーン会長がいないのであれば、また話は変わってくる。

 

時代の大きな転換期で、日産と組むメリットがないとルノーの経営陣が判断すれば、ルノーが保有する43%の日産株を第三の企業に売却してしまうことも考えられる。あるいは日産がルノーの保有株を全部引き受けるケースも考えられる。

 

③ 日産自動車がルノーを買収する

 

日産の現経営陣がトップを検察に突き出すにあたっては、その後のさまざまなシナリオもシミュレーションしたはずだ。たとえば、日産自動車がこれまでゴーンに止められていたルノーの株式を買い占めて、25%の株式を手中に収めようと考えるのは当たり前のことだ。日本の会社法ではルノーの議決権を25%保有すれば、ルノーの日産に対する議決権が相殺されて、両者の支配関係はなくなるからだ。

 

もっとも、そんな事態をマクロン仏大統領が黙って許すはずもない。そもそもマクロン大統領は、オランド政権時代に経済・産業・デジタル大臣として2年以上保有する株主の議決権を2倍にする「フロランジュ法」を成立させており、ルノーが日産自動車を経営統合させてフランスの会社にしようと画策していた当事者だ。しかも、現在では日産の下に三菱自動車まで付いてくる。

 

日産がルノー株を手に入れるためには、相当の覚悟を持って挑むしかなさそうだ。

 

そこで問題になるのは時価総額だが、日本企業はもともと少なく、トップのトヨタ自動車でさえ約22兆円程度しかない。世界のトップ企業は100兆円を超える「アップル」をはじめとして50兆円以上の時価総額を持つ会社が多い。

 

わずか4兆円程度の日産は、このグローバル社会の中では考えられないことだが、これまでルノーの傘下であったこと、ゴーンというカリスマ経営者がいたことを考えると、無理もないのかもしれない。

 

とはいえ、ルノーの株式保有比率を現在の15%から25%に増やさなければ、3分の1の株式を保有するルノーは、重大な決定事項を拒否できる。50%を超えれば、役員の選任も可能になる。

 

カギを握っているのは日本側なのか

むろん、こうした最悪のシナリオだけでなく、とりあえずゴーンが素直に罪を認めて、経営から足を洗い、お互いにウィン・ウィンの3社アライアンスを形成できる可能性もある。しかし、そのカギを握っているのははたして日本側なのだろうか。

 

日産自動車がどんなに頑張っても、結局のところは43%もの株を握られているルノー次第と言っても良いのかもしれない。

 

特捜本部も、自白なしで本当に有罪に持ち込めるのか。日産にとって、本当の正念場はこれからやってくる。

 

⑤日本のメディアの異常な報道と海外メディアの辛辣な報道

 

→ゴーン氏取り調べの不可解さ逮捕劇と日産会長解任がはらむ危険

 

※以下引用

 

かつてある企業の救世主だと称賛された元最高経営責任者(CEO)が空港で逮捕された。起訴されずに何日も勾留され、弁護士の同席なしに検察官の尋問を受けている。不正な金融取引の疑いがあるとメディアがリーク情報を流すなか、会社でのポストも解任された。

 

 共産党が支配する中国の話だろうか。いや、資本主義の日本で起きたことだ。日産自動車のカルロス・ゴーン前会長は不可解な取り調べに耐えている。公式に入手できる事実はどうも曖昧だ。この出来事は、日本のデュープロセス(適正な手続き)やコーポレートガバナンス(企業統治)に関心を寄せるどんな人をも悩ませるに違いない。

 

 日産を倒産の危機から救ったとして、ゴーン前会長が日本で絶賛を浴びたのはそれほど昔のことではない。だが今や、同容疑者は期限を定めずに拘置所に入れられ、家族との接触も、自分の名誉を擁護することも許されていない。自らの運命を知ることなく社用ジェット機で到着し、即座に逮捕された。日本人弁護士と2回ほど話し、レバノンとフランスの外交官に面会することができただけだ。

 

 日本の法律では逮捕後の容疑者を48時間まで身柄拘束できるが、裁判所が認めると10日間は起訴手続きなしに勾留でき、この期間はさらに10日間の更新ができる。その後、容疑を切り替えて再逮捕することも可能だ。だがそのような処遇は、不正行為や私的金融取引を行った前歴がない国際的なCEOよりも、ヤクザにこそふさわしい。日本の検察当局は、不正会計問題に揺れた東芝やオリンパスの容疑者に対してこのような扱いをしなかったはずだ。

 

 メディアが報じる罪状について奇妙なのは、日産がずっと前にそのことに気づくべきだった点だ。報道によるとゴーン容疑者は5年間にわたり、約4400万ドル(50億円)の繰り延べ報酬を報告書に記載しなかった。だが日産は、財務情報開示において繰り延べ報酬を報告する義務があっただろう。社内外の監査人、それに最高財務責任者(CFO)はどこにいたのだろうか。

 

 日産は米国人幹部のグレッグ・ケリー前代表取締役がこの報酬計画の黒幕だと主張する。ケリー容疑者も逮捕され、外部との連絡を絶たれている。だが仮に2人の容疑者が日産に気づかれないようにこれをやり通せたのだとしたら、同社は未公表の繰り延べ報酬よりもむしろ内部統制に重大な問題を抱えていると思われる。

 

 検察当局ではなく日産からのリークで報道されたもう1つの罪状は、ゴーン容疑者がリオデジャネイロやベイルートで利用していた住宅を会社の資金で購入したというものだ。だがそうした資産が会社の住宅なのか個人の住宅なのかを日産が承知していたのは確実だ。ゴーン容疑者の家族に近い筋によると、本人は該当する不動産を所有していなかった。

 

 もしかすると、こうした容疑を支持する証拠が浮上するかもしれない。だが今回の逮捕劇や罪状の詳細を見ると疑念を持たざるを得ない。先週、日産はゴーン容疑者を会長職から即座に解任した。3社連合のパートナーである三菱自動車も26日、ゴーン容疑者不在のまま会長職を解任した。

 

 日産の現CEOの西川廣人氏は、ゴーン氏の盟友だった。だが西川氏は今や、ゴーン前会長にあまりに権力が集中したとし、2000年代に日産をV字回復させた功績を評価しすぎたと主張する。また逮捕以来、厳しい口調でゴーン容疑者を公然と批判している。

 

 日産の窮地を救ったことで日本国民の多くが今も尊敬している代表取締役会長の信用を失墜させようとするなら、今回の逮捕に至った容疑を申し立てるほど効果的なことはない。そして日本のメディアは逮捕を事前に知らされ、羽田空港の滑走路近くで待機していたのだ。

 

 あなたが陰謀論者ではないとしても、一連の出来事を見れば、フランス自動車大手ルノーのCEOも務めるゴーン前会長が進めようとした日産とルノーの経営統合を阻止する動きの一環ではないかと思ってもおかしくない。ルノーが日産の救済に当たった経緯から、今も両社は相互に出資している。

 

 だが日産は仏政府が15%出資するルノーをはるかに上回る利益を誇る企業に成長した。西川氏はルノーとの資本関係に明らかに不満を抱いていたようだ。だが今回の逮捕で、両社の関係は取り返しのつかないほど悪化するかもしれない。

 

 日本は常に閉鎖的な企業文化を守ってきた。ゴーン前会長はこの「竹のカーテン」を外国人経営者として破った珍しい存在だった。不正会計問題の発覚以降、安倍晋三首相はコーポレートガバナンスの改革を推進してきた。だが同時に、日本のナショナリズムも後押ししてきた。もっと透明性を高め、容疑をはっきり説明し、ゴーン、ケリー両容疑者に自らを擁護する機会を与えることがなければ、日産による奇襲攻撃は、日本経済界の汚点として残ることだろう。

 

⑥日産のV字回復を成し遂げたカルロスゴーン氏の人物像

 

→ゴーン容疑者がフェルに語った“本音”とは(日経ビジネスオンライン)

 

※以下引用

 

フェルディナント(以下、F):はじめまして。フェルディナント・ヤマグチと申します。お会いできて光栄です。時間が限られていますので、早速質問をさせて頂きたいと思います。

 

 

日産自動車 社長兼CEO カルロス・ゴーン氏(写真:陶山 勉)

ゴーン(以下、G):どうぞ、何なりと聞いてください。

 

F:今回ゴーンさんからお話を伺うに先立ちまして、日産の代表的な自動車3車種を開発された方々……、「マーチ」の小林(毅)さん、「GT-R」の水野(和敏)さん、そして「リーフ」の門田(英稔)さん、それぞれの方からお話を伺いました。お三方とも非常にモチベーションが高く、クルマのことを愛していて、そしてとても個性的です。そういった方々のモチベーションをどのように引き出し、またどのようにマネジメントされているのでしょう。コツのようなものがあれば、教えてください。

 

権限は委譲、マイクロマネジメントはしない

G:初めに言っておきましょう。自動車メーカーには、クルマが大好きで、クルマに情熱を持っている人がたくさん集まっています。今あなたは“3名”とおっしゃいましたが、実際には日産にそういう人が何百人もいるんです。そして彼らは全員が、いつかはチャンスをつかみ、クルマを開発したいと思っている。

 ですから、情熱を持った人間がたった3名しかいない、などとは思わないで下さい。社員のみんなが情熱を持っている。クルマに対する熱い思いがあるんです。彼らは自動車メーカーに就職する前からそうした情熱を持っていますから、日産、あるいは私自身に何か特別なものがある訳ではないんです。もともと彼らが持っている熱い思いがあるんです。

 

 ミズノとは既にお話になったんですね。ええ、GT-Rのミズノさん。彼は非常に情熱的な人間です。それは私が彼と初めて会った時にすぐ分かりました。そして、GT-Rを作るならミズノだな、と決めたのです。彼には私にそう思わせる情熱、熱い思いがあったからです。

 

 さて、ではどうやってマネジメントをするかという質問に答えましょう。

 まずマネジャーに対してパワー、つまり権限を委譲することがとても重要です。そう、権限委譲です。その一方で、決してマイクロマネジメントをしてはいけない。

 

 まず、権限委譲して、クルマ作りに責任を持ってもらうのです。そして彼らには自分が期待することを正確に伝えなければなりません。「こうしてほしい」ということを明快に伝えるんです。「いつまでに何をどうする」という期待水準を伝えるんですね。

 リーフにしても、GT-Rにしても、マーチにしても同じことです。私が何を求めているかを彼らに明確に伝えました。伝えたことが理解されたらコントラクトを結びます。

 ええそう。“いついつまでにこうします”という、コントラクトを社内で結ぶんです。これは私が議長を務める正式な会議で承認されます。GT-Rもリーフも、もちろんマーチも、全て私が議長を務めた会議で決めました。

 そうした上で彼らにキーを渡します。そうです。鍵を渡したんですよ。あなたが責任者ですよ、あなたがボスでやるんですよ、とね。そして彼らは例えば開発のメンバーとか、商品企画担当者とか、生産部隊とか、営業部門とか、マーケティングのチームと検討しながら仕事を進め、それぞれのポテンシャルを発揮していくのです。

 

G:もう1つ大切なのが、彼らに対して“はっきりとした方向性を示す”ということです。これが重要です。そしてスタートしたら、もう自分は介入しない。ちゃんと方向性を示したわけですから、あとは彼らを信用して全てを任せる。そうすればモチベーションは必ず上がります。彼らには既にこうしてほしいと伝えてある。会社が彼らに対して何を求めているか十分に理解している。だから会社が権限を委譲するわけです。目的を実現するためにそうするのです。

 もちろんプロセスの途中で会議は何回もありますよ。目的との整合性、正しい方向に向かっているかどうかを定期的に確認しなければなりませんから。もし何か壁にぶち当たっている場合は、私たちがサポートするわけです。壁を乗り越えるために後押しします。

 しかし、あくまでも主役はマネジャーです。彼らが最後まで責任を持ってマネジメントするのです。だからGT-Rはミズノのクルマです。素晴らしいクルマができました。

 

GT-Rはミズノのクルマです。ゴーンのクルマじゃない

F:GT-Rは水野さんのクルマですか。ゴーンさんのクルマではないのですか。

 

G:ノー!違います。ミズノです。GT-Rはミズノのクルマです。私のではない。なぜならミズノが責任者だからです。もちろん彼が2、3の選択肢を持って意見を聞きにくることがあれば、私はその中から1つを選びます。ミズノが複数の方向を持ってきて、どちらがいいかと判断を求めてきたら、「私はこの方向がいい」と言うのは構わないんです。ミズノが決断を求めてきたら、私はそれに答えます。決断を下すのです。ただ、あくまでもミズノがマネジメントの責任者です。

 これは重要なポイントです。担当者に本当に誇りを持ってクルマ作りをさせるということ、モチベーションを持って仕事をさせるということです。そこにマイクロマネジメントがあってはならない。

 私はGT-Rがゴーンのクルマになることを望んでいません。GT-Rはミズノのクルマであるべきです。担当者が自己表現をできるようにするんです。モチベーションを引き上げるために極めて重要なことです。

 ただこれが、いつもうまくいくわけではありません。いまは完璧な図、理想的なケースの話をしています。

 プロジェクトを進めていけば、時にはいろいろな人間が介入したり、壁が出てきたり、罠に陥ったり、意見の相違があったりするものです。ですから、今申し上げたのは理想像です。人間のすることですから、全てが完璧という訳ではないのです。

 

 

(写真:陶山 勉)

 ともかく、方向性を明確に示して、決してプロジェクトマネジャーを暗闇の中に置き去りにしないこと。あるいは矛盾する要求を突きつけないこと。そして無理なタスクを押しつけないこと。これがマネジメントのカギです。方向性がはっきりしていて、担当者がそれを正確に把握できれば、あとは全てを任せるべきです。

 そうした上でコーチングをする、つまり支援をしていきます。彼らが、こういったサポートをしてほしいということがあれば、全力でサポートします。

 GT-Rは素晴らしいクルマに仕上がりました。日産リーフも、マーチもそうです。ミズノ、カドタ、コバヤシの3人。彼らは素晴らしい成功を収めました。

 

F:今ゴーンさんがおっしゃった権限委譲とか方向性の提示といったマネジメントの手法は、どこで学ばれたのですか。

 

G:私はこれまで常に上司だったわけではなく、従業員だったり、部下だったりした時期もあります。それも何年も。会社の規模やレベルは違いますけれども、私は多くの会社で経験を積んできました。

 ですから、何がモチベーションの源になるかがよく分かりますし、逆にモチベーションが下がる原因も分かります。何しろ自分自身が部下だったことがあるのですから。私は過去に従業員、あるいは部下として2つのことを学びました。

 まず1つ目は、自分にとって一番厳しい人間は自分自身であるということです。

 例えば私が誰かにタスクを与えられたとすると、私が最も要求水準の高い人間として、自分自身を全力でタスクに向かわせてきました。そう、自分に一番厳しい人間は他の誰でもない。自分自身なんです。

 

 

(写真:陶山 勉)

G:これは、単純なルールです。適切な人材に権限を委譲すれば、その本人以上に厳しい要求水準を求める人はいないのです。上司でもなければ会社でもない、もちろんCEOでもない。本人自身です。自分が自分に一番厳しいのです。

 権限を委譲するということは、その相手がベストを尽くし、会社のために全力で働いてくれるということなのです。ああ、但しこれには条件があります。いま言った話は、適切な人材に対してのみですよ。そうです。相手を正しく選択しなければなりません。これが1つ目。

 2つ目は、マイクロマネジメント、いわゆる重箱の隅をつつくようなマネジメントはいけない、ということです。あれは一番モチベーションが下がるんです。上司があれもダメこれもダメだと否定して、ああしろこうしろと細部に渡っていちいち事細かに指示を出したらどうなりますか。

 間違いなくモチベーションが下がりますよね。私が担当者なのに……と思うじゃないですか。このタスクは私に任せてくれよと。組織の中で立場が上がっていく中で、私はタスクを自分で実行してきました。その結果、私はマイクロマネジメントをしない主義となったのです。

 

一番大事なのはあなたを信頼しますという姿勢

F:自分に最も厳しいのは自分自身。そしてマイクロマネジメントはしない。なるほど。

 

G:私は方向性を明確化することに時間を費やします。方向性を明確化する、優先順位を明確化することが重要です。もちろんコーチングはしますよ。問題があれば相談に来てください。そのまま問題を放置せず、解決策を一緒に見いだしましょう、ということです。

 一番大事なのは、あなたを信頼しますという姿勢、あなたが仕事をしてくれると私は信じていますよという姿勢です。ただ、私をがっかりさせないでくださいとも言います。それでだいたいのことはうまくいくんです。

 

F:なるほど、大変よく分かりました。今のお話で、ゴーンさんは自分に一番厳しいのが自分であるとおっしゃいましたけれども……。

 

G:私だけではなくて、皆さん、そうですよ。

 

F:本当にそうでしょうか。多くの日本のビジネスパーソンは、逆ではないかと思うのですが。むしろ自分に一番甘いのが自分自身ではないかと思うんです。多くの人は、まあいいや、このへんでやめちゃおうと思わないでしょうか。易きに流れる、ということです。

 

G:いえ、それはどうでしょう。私はそう思いません。思いませんね。

 人が諦めるのは、正しい教育研修を受けてないとか、準備ができない中でもっとやれと言われた場合だと思います。つまり初めから無理だと分かっている場合です。或いは自分は信頼されてないと思うから、諦めるんじゃないでしょうか。そう。だから諦めるんですよ。

 

G:さらに見返りがないケースも考えられます。いくら仕事を一生懸命やっても、誰も褒めてくれないとか、評価してくれないとか。こういう状況もよくありません。決して自分自身に甘いからじゃないと思うんです。そうではないと思います。

 ただ、繰り返しますが、私が申し上げているのは所謂選ばれた人々、マネジメントスキルとリーダーシップを持っている人々の話ですよ。この人たちは非常に自分自身に対して厳しいんです。例外はありません。

 

F:なるほど。ところで日本で仕事をなさっていると、日産の社員だけではなくて、いろいろな日本のビジネスパーソンとおつき合いがあると思うんですけれども、そういった方々と仕事を進めてこられてゴーンさんが感じた、日本のビジネスパーソンの良いところ、そして悪いところを教えてください。

 

G:私が実際につき合ってきた日本のビジネスパーソンは、多くは非常に実際的です。実際的というか現実的というか。例えば、一緒に会合すると……、会合は特定の目的があるから集まるわけですよね……、大体はすぐに特定の目的、本題に入るわけですよ。時間をムダにしない。回りくどいことをやるのではなく、すぐにポイントを突いていくということです。まずこれが1つ。

 

日本のビジネスパーソンは、好奇心が旺盛

G:それから2つ目。日本のビジネスパーソンはとても好奇心が旺盛だということです。もちろんいい意味での好奇心ですよ。あ、これがうまくいったんですね。じゃあ教えてよ。どうやってやったの?と聞くんです。知的好奇心が非常に旺盛です。

 

F:それは日産内部の話ではなく、他社の人間でも同じですか?

 

G:そうです。同じです。他の人の成功に非常に興味を持っているんですね。どうしてそれがうまくいったのかと聞いてくるんです。他の国でそんなことを聞くことは余りありません。ええ、聞かないですね。一部のCEOは、他社の成功なんかにまったく関心がありません。

 ですが日本は違います。日本人はどうやって成功したのかと聞いてくる。非常に好奇心が旺盛です。これが2つ目。

 そして通常日本のビジネスマンは、所謂フォームを尊重する。つまり礼儀正しいということです。相手のCEOに対しても敬意を表する、責任者に対して敬意を持っている、これが3つ目ですね。相手に対する敬意と礼儀です。

 

F:外国の人はそうでもないですか。

 

G:全員ではないですが、必ずしもそうではないと思います。

 ただ、日本人にとって“外国人は何か”、ということもあります。アメリカ人とか、イギリス人とか、フランス人とか、アジア人とか、中国人とか……外国人にもたくさんいるんです。全部同じというわけではないので、十把一絡げという訳にはいきません。

 

 

(写真:陶山 勉)

G:押並べて日本のビジネスパーソンは、若干控えめというか、保守的なところがありますね。

 私は今までの経験から申し上げているのですが、日本のビジネスパーソンが理論立てて行動するのには、ちょっと時間がかかるかなと、思います。

 ただ、非常に会っていて楽しいというか、いい方々が多いですね。私はいつも日本のビジネスパーソンから学ぶところがあります。本当に興味深い話ができます。うわべだけというのがないのです。

 例えばミーティングで、結局今日のは何だったのかな、何にも学習できなかった……意見交換もあまりできなかったな……ということがないんです。日本のビジネスパーソンとのミーティングは、いつも何か得るものがあるんです。

 

*   *   *

 

 インタビュー前半は、ゴーン流の仕事術を中心にお話を伺いました。

 後半はゴーンさんの考え方、学び方、クルマとは何か、仕事とは何か、そしてこれからの人生をどう過ごすか、までスルドク伺います。

 お楽しみに!

 

※次ページから後編を掲載しています

 

F:3月11日は日本にとって大変不幸な日となりました。大地震が起きてその影響で大津波が発生し、多くの方が亡くなりました。そして更に深刻なことに原子力発電所が事故を起こしてしまいました。この大震災が起きた時に、ゴーンさんはどちらにいらっしゃいましたか。

 

ゴーン(以下、G):3月11日にどこで何をしていたか、ということですか。

 

F:その通りです。

 

G:その時、私はパリにいました。よく覚えています。私はルノーのエグゼクティブコミッティーの議長をやっているんです。パリにいましたね。

 

F:まず何を思いましたか。そして何をするべきだと考えましたか。

 

G:電話で連絡して状況把握に努めました。そして日産の従業員の安否を確認しました。シガ(志賀俊之COO=最高執行責任者)とか、サイカワ(西川廣人副社長)とか、その時日本にいた役員に責任を持って対処するよう指示を出しました。その日は確か金曜日でしたね。

 

F:そうです。金曜日です。

 

 

日産自動車 社長兼CEO カルロス・ゴーン氏(写真:陶山 勉)

G:実は翌週の月曜日にセミナーを予定していたのです。それは(ルノーとの)アライアンスセミナーというもので、日産のすべての役員がアムステルダムに集まってルノーの役員と一緒に会議をする予定だったんです。しかし地震があったので、会議そのものを中止にしました。

 日本に残って対応をしてほしいと。皆さんにはやるべきことがあるからと。

 つまり権限を委譲したんです。心配しなくてもいい。セミナーなんかはどうでもいいから、日本を優先してください。とにかく現場に行って従業員をサポートして、復旧、つまり危機を乗り越えるために全力でサポートして下さいと言ったんですね。

 

F:震災の直後はずいぶん誤報もあったのですが、とにかく日本は放射能で危ないという情報が世界中を駆け巡りました。特にフランスの政府は、フランス人は日本から速やかに退避するように伝えたそうですね。実際にフランス人だけでなく、多くの外国人が半ばパニックになりながら日本から逃げ出していきました。そうした状況の中で、ゴーンさんは逆に日本に戻ってきて、しかも原発に近いいわきの工場にも行って、従業員の応援をされました。なぜそうされたのですか。

 

CEOはいつも第一線にいなければならない

G:なぜそうしたか、ですって。オゥ!(ゆっくりと大きく首を横に振って。しかし決して視線は外さずに)

 なぜそのような質問を? 私はCEOです。この会社の、日産のCEOなんですよ。どうかそのことを忘れないで下さい。当然です。当然のことをしたまでです。私はフランスからの旅行者ではない。観光客でもない。私はこの会社の社長です。日産のCEOなんですよ。ですから、いつ日本に来られるか、一番速いルートはどれであるかをまず初めに考えました。いつ飛行機に乗って日本に行けるのかを最初に聞きました。

 しかし、空港は閉鎖されているらしい。今すぐには日本に行けない、震災直後はそのように言われました。エアーが確保されて実際にゴーサインが出たら、すぐに日本に向かって飛び立ちました。

 繰り返しますが、私は会社のCEOです。これは当然のことなんです。CEOはいつも第一線にいなければならないのです。

 

 従業員が非常に厳しい困難に直面している。だからその現場に行く。私は直ちに栃木工場に行きましたし、いわき工場にも行きました。この2つは我々の工場の中でも特に被害が大きかったところです。だから行くのです。当然じゃないですか。

 本社の建物やフランスに隠れているわけにはいきません。私はCEOです。この会社のCEOなんですよ。従業員が困難に直面しているんだから、私が第一線にいなくてはならない。それは私の義務です。当然です。私はそれを躊躇することはありません。当たり前のことなのです。

 

F:ゴーンさんのようなお考えがある一方で、フランスの証券会社や銀行のエグゼクティブ、あるいは有名レストランのシェフなどが、それこそ一目散に日本から逃げていきました。

 

G:それは理解します。政府が避難しろと言っているのに、会社の社長が従業員に対して避難するなと命令することはできません。実際に何か被害が起こったらどうします? 私はその従業員とその家族に対して、大きなそして深刻な責任を負うことになるんです。あの時は政府が避難しろと言っていたわけですからね。企業として独自の判断を下すのは簡単なことではないんです。

 具体例を挙げましょう。例えば中東で紛争が起きた時、日本の政府から、エジプトや、リビアなどの国々には入るなという指示が出ました。あるいは避難しろと言われた。そうなると、そこに社員を派遣している会社の社長は日本人従業員に対して、政府の指示を無視しろ、そこを動くな、逃げるな、とは言えません。日本政府からの指示があれば、社長は日本人を避難させなければならない。そうしなければ、非常に大きな責任をCEOが負うことになってしまいます。日本の政府が避難しろと言っている中で強制的に残れと言うのは、とても厳しいですよ。

 結局は、社員が自分自身で決めることになるのです。企業はこういう時に立場がなかなか難しいんです。政府がこうしろと指示を出している時に反対することはできません。

 

一番の問題点は方向性が明確でなかったこと

F:なるほど。たいへんよく分かりました。ゴーンさんはマイクロマネジメントはよくない。マイクロマネジメントはなさらない主義であるとおっしゃいました。ゴーンさんがくる前の日産はマイクロマネジメントの会社だったのですか。

 

 

(写真:陶山 勉)

G:いや、そうは思いません。日産の一番の問題点は、方向性がはっきりしていなかったことでしょう。ビジョンがない、あるべき姿が分からない。だから優先順位も分からなければ方向性も分からなかった、ということです。これでは社員はどうしていいか分からない。どちらに向かって進めばいいか分からないじゃないですか。

 例えば社内で開発の議論をするとします。ある人間は「GT-R」をやると言う。またある人間はGT-Rなんかダメだという。技術的に開発は十分可能であると言う人間もいれば、いやいや無理だよと言う人間もいる。いくら会議を重ねても、コンセンサスが得られない。全員一致にならない。

 こんな議論をいくら長期間重ねても、いいクルマなど作れる訳がありません。なぜそのような状況になるのか。方向性がはっきりしていないからです。だからああでもないこうでもないと異論ばかりがぶつかり合って結果を下せなくなるのです。

 ではどうすればいいのか。トップが方向性を示すのです。GT-Rを作ることは私が決めました。私が責任を負って作りますと言ったんです。誰かが実際に立ち上がって「これをやるんだ」と明確に言わなければならない。これが我々のあるべき姿だ、と。優先順位はこれだ、と道筋を示したのです。それから全社の足並みを揃えることに時間を費やした。

 道筋を示す。これが欠けていたのが(ゴーン氏がCEOに就任するまでの)日産の弱点だったと思うんですね。方向性がはっきりしていなかった。一貫したものがなかった。だから足並みがそろってなかった。立ち上がって、道筋を示して、矛盾したものがないようにすれば良いのです。

 

 マネジメントするには、1つのことを追求しなければなりません。矛盾があってはならない。そして、その結果の責任を負わなければいけない。ご存知の通りGT-Rは走行性能を追求するために四輪駆動を採用したクルマです。四輪駆動は使用するパーツが多いため重量が重くなります。一方で、スポーツカーは車重が増えるのをできるだけ避けたい。四輪駆動を選んだ以上は、車重が重くなることを受け入れざるを得ない。これを決めるのもリーダーシップの1つです。あるメリットを享受するためには、1つのマイナス面も受け入れなければならない。どれを取ってどれを捨てるのかの判断を下す。それもマネジメントの重要なポイントです。

 

F:なるほど。そのGT-Rを実際に組み立てている工場の見学に行ったのですが、中間管理職の方も含めて“水野組”とでも言うべき、1つの“ファミリー”のような一種独特の雰囲気がありました。あれはゴーンさんがつくった仕組みなのですか、それとも元々日産にある文化なのですか。

 

G:その雰囲気は、そのプロジェクトのマネジメントをしている人間、あるいは部署の長がつくるものだと思います。もちろん、そういった信頼関係をつくるように奨励はしていますよ。社員同士の友好関係、そして仲間意識を構築できるようにと言っています。

 しかし、必ずしもうまくいくわけではありません。人間関係は、強制的に作りなさいと言っても簡単に構築できるものではない。ミズノ(水野和敏氏=GT-Rの開発責任者)とそのチームが非常にいい環境、いい雰囲気を持っているのは予想外のことではありません。

 彼らはみんな自分自身の達成感に誇りを持っていますからね。GT-Rは商品としてうまくいっていますし、技術的にも成功しています。達成感を持つということ、成果を出すということで、結果的に理想的な関係がつくれるんです。

 そう、GT-Rが成功したからこそ友好関係とか仲間意識が生まれるんです。達成感がなければ人間関係は悪化します。雰囲気も悪くなるんです。仕事がうまく行かなければフラストレーションが溜まるでしょう。ミズノのチームは、仕事がうまくいっているから雰囲気がよいのだと思います。

 

ゴーンさんにとって仕事とは何ですか

F:仕事がうまく行っているから。なるほど。ではゴーンさんにとって“仕事”とは何ですか。

 

G:仕事は“責任”と“タスク”だと思います。つまり自分自身の責任とタスクで、会社から与えられた……あるいは組織から、政府でもNPOでもいいのですが……与えらた課題に対して、自分自身が貢献するものだと思います。

 

F:責任とタスクに貢献する……。

 

 

(写真:陶山 勉)

G:そしてその貢献に対して対価が支払われる、つまり報酬ですね。それが所謂“仕事”だと思います。報酬というのは金銭的なものもあれば……これは企業や政府の場合ですね……あるいはNPOのように“認知”をされることかもしれません。貢献に対して何らかの形で報酬・見返りがある。それが仕事だと思います。

 

F:すると報酬のないもの、見返りのないものは仕事ではない。

 

G:報酬がないとなると仕事ではありませんね。それは仕事とは別のものです。仕事と違う“何か”です。ただ、私たちは人生の中で重要だけれども仕事ではないことってたくさんありますよね。

 

F:ボランティアとかそういうことですか。

 

G:父親が自分の子供の教育をする場合はどうでしょうか。それは仕事ですか?仕事じゃないでしょう。自分の子供の教育に対して、一切の見返りを求めていない。もちろん愛情とか敬意を求めるとは思います。しかしそれは報酬や見返りとは意味が違う。仕事とは違うじゃないですか。

 

F:なるほど。それではゴーンさんに取ってクルマとは何ですか。

 

G:クルマは自主性をもたらすものです。つまりフリーダムです。

 

F:フリーダム。

 

G:そう。フリーダム。さらに美的な感覚を満足させる部分もありますし、ステータスシンボルでもある。また非常に実用的なスペースも与えてくれます。今までもそうですが、クルマはこれからますます実用性が高まってきます。電話やコンピューターは使えるし、ビデオも見られる。テレビゲームだってできる。iPhoneやiPadも接続できます。クルマはこれからますます快適で心地よい空間になるんです。音楽を聴いたり、コミュニケーションを取ったり、あるいは映画を見たりもできる。

 そして極めて近い将来に蓄電池の役割も果たせそうですね。EV(電気自動車)のバッテリーが家庭に電力を供給する蓄電池になるんです。クルマはさまざまな側面から成り立っているのだと思います。つまり“情緒”と“理性”。この両方に訴えかけるものなんです。ええ、両方です。ですからクルマは21世紀の人間にとっても極めて重要な商品であり続けます。

 

F:クルマはそれほど素晴らしいものであるのに、非常に残念なことに日本の若者は興味を喪失しつつあるようです。若い人がクルマに興味を示さないという事実がある。この事実をどうお考えですか。そして、それをどのように解決なさるおつもりでしょう。

 

G:それは別に特別なことではないと思います。日本では既に国内にたくさんのクルマが走っています。さらに自動車メーカーもたくさんある。視点を他の国に移してみて下さい。特に新興国などに。生活が安定してくると、彼らが“いの一番”にほしがるのがクルマなんですよ。

 そして、もし就職できるのであれば、ぜひ自動車メーカーに入社したいと考えています。エンジニアでも作業員でもいい。誰もが自動車メーカーに入社したいと言うんです。それはインドや中国、あるいはブラジルやロシアでも同じです。クルマを所有することだけでなく、自動車メーカーに就職すること自体が、彼らにとってステータスシンボルであるのです。

 確かにご指摘の通り成熟市場の人は、従来よりもクルマに対する関心が薄くなっていると思います。しかし、それでもクルマは重要な道具です。自動車メーカーも企業として重要です。雇用をたくさん生みますし、何よりも従業員が誇りを持って仕事をしています。例えば日産なら日産の社員であることに強い誇りを持っています。それが新興国になると、さらに強い思いとなります。就職先の人気ランキングでは、新興国では自動車メーカーがトップレベルです。

 

F:新興国市場で最重要視しているのはどこですか。先日発表された中期経営計画である「日産パワー88」では、特に中国の市場に関して非常に野心的な数字を示されました。やはり中国を重要と見ているのですか。

 

G:そうですね。中国は世界最大の市場ですし、今後の展望も明るいと見ています。将来が有望な国で、しかも高い成長率が想定できる。さらにパートナーとして素晴らしい企業が揃っています。

 

F:日産はこれから中国でもたくさんのクルマを生産する予定ですよね。

 

G:はい。その通りです。

 

F:日本も原発が止まって大変ですが、中国でも急速な発展に電力供給が追いつかず、慢性的な電力不足に陥っていると聞いています。一説によると、発電所の実に50%が休止状態にあるとも……。中国で増産するに当たり、電力に関してどうお考えですか。電力供給が滞ると、自動車生産にとって致命的なダメージになりませんか。

 

G:現時点では中国に電力の問題はないと考えています。今中国ではインフラ整備の真っ最中です。現在は石油や石炭、あるいは水力により発電していますが、原発も懸命に建てている最中です。

 中国政府はエネルギーに対する意識が非常に高いんです。彼らは相当なリソースをかけて発電所を作っています。ですから私は電力供給に関して心配していません。彼らはちゃんと意識しています。発電に関して多額の投資もされています。既にかなりのリソースがあるのです。中国は原発だけではなく、多様化した発電所を造ろうとしています。そのために継続的な投資もされています。心配はしていません。

 

最近見た映画は何ですかって…

F:なるほど。中国の電力に関しては楽観視しておられるのですね。スミマセン。話は思い切り飛びますが、ちょっと個人的なお話を聞かせて下さい。映画は好きですか。一番最近ご覧になった映画を教えて下さい。

 

G:そうですね。『Revenge of the Electric Car』という電気自動車の映画です。

 

F:直訳すると「電気自動車の復讐」。うーん。聞いたことがないなぁ……。

 

G:ご存じないですか?これ、私が出ている映画です(笑)。4人のヒーローのうちの1人として描かれています。とてもよくできている、非常に楽しい映画です。自分が出ているフィルムですが、一番最近見た映画というとこれになります(笑)。

 

 

(写真:陶山 勉)

F:なるほど、ではせっかくですから宣伝しておきます。詳しくはこちらを。

 あの、因みに『007』シリーズの監督のサム・メンデスさんが、ゴーンさんに「日産からボンドカーを提供してください」と言ってきたら、何を出しますか。

 

G:GT-Rをベースにして、一部を改良します。よりポジティブなデザインにすれば、GT-Rは素敵なボンドカーになると思います。あれは最高のスパイ・カーですよ。

 

F:その時に敵役のクルマはどこになりますか?

 

G:ははは。やはり競合他社のクルマですね。

 

F:それはポルシェでしょうか(笑)。

 

G:競合他社のクルマならどこでもいいです(笑)。

 

F:無人島に流された時に1冊だけ本を持っていけるとしたら何を持っていきますか。

 

G:滞在期間によります(笑)。どれくらいの期間その島に滞在することを予定すればいいでしょう。

 

F:滞在ではなくドリフトです。漂流して無人島に流れ着くのです。ですから滞在期間は未定です。他の船がゴーンさんを見つけてくれるまで、3日間。1カ月。あるいは半年……。

 

G:誰かが見つけてくれるまで?オォ!(苦笑)。それなら楽しい本にします。何か楽しそうな本がいいですね。1人で孤立しているわけですよね。そうであれば、あまり人生のことなど考えたくない。漂流するなんて、ひどい生活であることは間違いないですから、まったく違うことを考えたい。分厚いスリラーか推理小説がいいかな。

 

F:さすがにそうした状況ではビジネス書ではないですか(笑)。

 

G:もちろん違います。たとえ漂流しなくても、私は普段からビジネス書を読みません。嫌いなんです。ビジネス書は読みたくない。例えば歴史書とか、推理小説とか、あるいは何か発見の話とか、科学の本とか……。何か学べる本は読みますが、経営書は読みません。退屈ですから。

 

F:それは意外ですね。ビジネス書、経営書の類はご覧にならないのですか。いま日本ではピーター・ドラッカー氏の書籍が大変なブームになっていて、それこそ女子高生でも読んでいるのですが、ご興味はありませんか。

 

G:ドラッカー氏は素晴らしい人物だったと思います。いろいろ著作があることは存じ上げていますし、多くの経営者をサポートされた方なのだとも思いますが、私自身はその1人ではありません。

 

F:ゴーンさんに経営の師匠と呼べる人はおられますか?

 

G:1人に特定できないです。複数の人間から学びました。ですから「ゴーンは誰も見習わない」ということではないのです。私は1人ではなくて複数の人間から学ぶのです。私が本当に感動を覚える人は複数いますが、それぞれある一側面からなのです。例えば優れた技術をもった職人だったり、絵描きだったりとか。あるいは普通の作業員から学ぶこともあります。もちろん母親からも。私は多くの人に興味を持ちます。本当に何か特別なことをうまくやっている人から学びます。1人だけにフォーカスはしないですね。

 

F:ゴーンさんは宮本武蔵をご存知でしょうか。

 

G:はい。あまり詳しくはありませんが、有名な日本のサムライですね。

 

F:そうです。その武蔵が著した『五輪書』という兵法書があります。そこには「我以外皆我師」と書いてあるそうです。つまり“どんな人からも学ぶべき点はある、常に学ぶ姿勢を忘れてはいけない”という程の意味なのですが、それと同じですね。

 

G:違います。“どんな人からも”ではありません。残念ながら全ての人が学ぶべき点を持っているとは思いません。私には多くの師がいる、ということを申し上げたいと思います。ある特定の側面について、一人ひとりが師である、ということです。

 

広報星野嬢:ヤマグチさん。そろそろお時間です……。

 

F:や、もう45分。それでは最後にひとつだけ聞かせてください。ゴーンさんは、将来は何をなさるおつもりですか。

 

G:あなたは自分自身の将来についてご存じですか? 誰にも分かりませんよ(笑)。

 

F:質問を変えましょう。「日産パワー88」が完了する6年後も、ゴーンさんは日産のCEOなんですか。

 

引退したらもう仕事はしません

G:6年後ですか。まぁ確率は低いでしょうね。6年後でしょう。かなり可能性は低いです。

 どこかでやはり、ここらで辞めようじゃないか、という“引き際”があると思うんです。これが最後の中期計画です。私が出す計画としては、「日産パワー88」が最後になると思います。

 

F:もし日産を辞められたら、その後にほかの自動車メーカーに行く可能性はありますか。

 

 

(写真:陶山 勉)

G:ノーノー。それはありません。仕事はナシです。もう仕事はしません。

 

F:まだお若いのに、日産を最後に仕事から引退してしまうのですか。

 

G:ほかにもすることはたくさんあるじゃないですか(笑)。今のような仕事だけではなく、いろいろなことが。仕事はしますが、所謂企業ではないでしょうね。例えばNPOでもいいし、どこかの大学で教べんを執るのもいい。何でもあるじゃないですか。ただ、今回の「日産パワー88」がビジネスとしては最後の計画だと思っています。それが妥当なところだと思います。これは別にスクープじゃないですよ。

 

F:大変よく分かりました。ありがとうございました。あ、あ、あ、握手して下さい。

 

G:どうもどうも(笑)。